歯をできるだけ削らない「ミニマルインターベンション」
今回は当院でも実践している「ミニマルインターベンション(最小の侵襲)」について解説します。
なぜ今「削らない治療」が注目されているのか
従来の歯科治療といえば、虫歯になったら削って詰め物をする、というのが当たり前でした。しかし最近では、「歯をできるだけ削らない」という治療法が広まっています。
これは「ミニマルインターベンション(MI)」と呼ばれる考え方で、2002年に国際歯科連盟にて採択されたものです。簡単に言うと、虫歯の部分だけを最小限削って、健康な歯はできるだけ残そうという治療法です。
昔は虫歯の周りも含めて大きく削っていましたが、実はそれって健康な部分まで削ってしまっていたんです。その結果、治療後に歯が弱くなったり、最悪の場合は神経を取らなければならなくなることもありました。
削らない治療、どうやって実現している?
虫歯の部分だけを正確に見分ける技術
「削らない治療」を可能にしているのは、まず虫歯の部分を正確に見分ける技術です。「う蝕検知液」という特殊な液体を使うと、虫歯の部分だけが染まって見えるようになります。これで健康な歯を削らずに済むんです。
接着剤の進化が大きな要因
昔は詰め物を固定するために、歯を大きく削って「引っ掛かり」を作る必要がありました。でも今は接着剤の性能が格段に向上したおかげで、削る量が少なくても歯の表面にしっかりくっつけることができます。
質の高い詰め物材料
コンポジットレジンやグラスアイオノマーという材料は、見た目が自然で強度も十分。歯にかかる力をうまく分散してくれるので、歯が割れるリスクも減らせます。
削らない治療のうれしいメリット
歯が長持ちする
当然ですが、削る量が少なければ少ないほど、歯は長持ちします。自分の歯を将来抜かなければならなくなるリスクも大幅に減らせるでしょう。
治療のやり直しが少ない
健康な歯の部分をたくさん残せるので、治療した部分が再び悪くなるリスクが低くなります。何度も治療を繰り返す必要がなくなるのは、患者さんにとって大きなメリットです。
痛みが少ない
削る範囲が小さいので、麻酔もそれほど使わなくて済みます。神経を取らずに治療できることが多いので、治療中の痛みも少なくなります。歯医者が苦手な人にはありがたい話ですね。
見た目がきれい
自分の歯をできるだけ残すので、当然見た目も自然です。最近の詰め物材料は本物の歯とほとんど見分けがつかないレベルまで進化しています。
課題もある
歯医者さんの技術が重要
削らない治療は、歯医者さんの診断力と技術力が重要になります。虫歯の状態を正確に把握して、本当に必要最小限の治療で済ませるには、相当な経験と技術が必要です。
費用が高めになることも
特殊な材料や器具を使うため、従来の治療より費用が高くなる場合があります。ただし、長期的に見れば再治療のリスクが低いので、結果的にはお得になるかもしれません。
まだ知らない人が多い
残念ながら、削らない治療があることを知らない患者さんも多いのが現状です。また、すべての歯科医院で対応できるわけではないのも課題の一つです。
これからの歯科治療
人生100年時代と言われる今、歯の健康は全身の健康に直結します。削らない治療は、そんな時代にぴったりの治療法と言えるでしょう。
技術はどんどん進歩していて、さらに精密な診断や、より優れた材料の開発も進んでいます。きっと近い将来、削らない治療が歯科治療の当たり前になる日が来るはずです。
自分の歯を一生大切に使い続けるために、削らない治療という選択肢があることを、ぜひ覚えておいてください。